トラウマとは、「心の傷」と呼ばれる体験のことです。肉体の傷とは違い、時間が経っても簡単には治らない場合もあり、どのように対処すればいいのかわからないケースもあるでしょう。
トラウマの種類、克服するためのポイント、具体的な治療法などを解説します。
トラウマとは

トラウマとは、さまざまな悩みの根本的な原因となる、心に深い傷を残す出来事や体験のことです。心理学の専門家からは、「心的外傷体験」との言葉で説明されています。
トラウマは、軽度なものから重度なものまで幅があります。軽度なものは、日常的な体験の中に含まれるものです。中程度以上になると、「適応障害(ストレス障害)」、重度になると、「急性ストレス障害」「心的外傷後ストレス障害」「解離性障害」などと診断される原因になる場合もあります。
トラウマの原因は、虐待や暴力などの個人的な体験から、親しい人の死、戦争・災害・悲惨なニュースまで、多岐にわたっています。トラウマを経験すると、うつ病や不安障害などの精神疾患を引き起こす場合もあるようです。
トラウマの種類

トラウマは自然災害、社会的不安、生命などの危機に関する体験、喪失体験など、多様な要因によって、もたらされるものです。また、トラウマによる反応としては、感情・思考の変化、身体の変化、行動の変化などにあらわれます。
さまざまなパターンがありますが、大きく2つの種類に分けられます。単回性トラウマと慢性反復性トラウマです。それぞれ、どのようなものか、特徴や症状の具体例を解説します。
単回性トラウマ
単回性トラウマとは、事故・犯罪被害・災害・喪失体験など、単発の経験によってもたらされるものです。一度のショックが、原因になっている特徴があります。
自分自身の経験したことだけでなく、衝撃的な現場を目撃した、悲惨なニュース映像を見たといった間接的な体験によってもたらされる場合もあります。また、身内や親しい人の死などの体験や、財産の喪失、失恋、失職が、単回性トラウマをまねくこともあります。
単回性トラウマでは、その要因になっている体験を本人が自覚しているケースが多いようです。直接的・間接的体験から4週間以内に症状があらわれて、3日以上続くケースもあります。
単回性トラウマの主な症状は、以下の4つです。
- 再体験
- まひ・回避
- 過覚醒
- 否定的認知や気分
再体験とは、心の傷を負った出来事が繰り返しよみがえり、追体験することです。突然興奮する、不安になる、人が変わったようになるなどの症状があらわれます。
まひ・回避とは、トラウマを呼び起こさせる環境・状況を避けることです。トラウマによって引き起こされる苦痛や悲しみを避けるために、無感情・無感覚になる場合もあります。具体的な反応は、表情がなくなる、ぼーっとするなどです。
過覚醒とは、常に緊張している、過敏になっているなどの状態です。眠れない、小さな物音に驚くケースもあります。
否定的認知や気分とは、自分や他人や社会に対して、ネガティブな気持ちを抱いてしまうことです。無力感を抱えて、無気力になってしまうケースもあります。
慢性反復性トラウマ
慢性反復性トラウマとは、いじめ、虐待、両親の夫婦げんか、差別、貧困、家族の病気など、長期的に続く体験によってもたらされるものです。「複雑性トラウマ」と呼ばれることもあります。
まわりから見ると、それほど深刻な体験でないと思える場合でも、長期的に繰り返し体験することによって、大きな心の傷になってしまうこともあるようです。
単回性トラウマとの大きな違いは、ごく普通に見える日常の中でも発生しやすい、身近なものであること、本人が自覚しないうちに深刻なダメージを受けているケースがあることなどです。
「心の傷」の受け方としては、より根が深いという言い方もできるかもしれません。本人が自覚していないうちに、慢性反復性トラウマになっていたというケースも報告されています。
慢性反復性トラウマの主な症状は、以下の4つです。
- 対人関係がうまくいかない
- 仕事がうまくいかない
- 無価値感
- 過緊張
対人関係がうまくいかない、仕事がうまくいかないなどと感じているからといって、必ずしも慢性反復性トラウマが原因であるとは限りません。しかし、当てはまる場合には、慢性反復性トラウマの可能性があることを認識しておくと良いかもしれません。自分を責めすぎることを避けられる場合があるからです。
周囲にペースを合わせられない、他人を信頼できないなど、トラウマによってもたらされた症状が、仕事のさまたげになることも考えられます。
無価値感とは、自分には価値がないと感じてしまうことです。慢性反復性トラウマによって、無価値感が増していくこともあります。
過緊張とは、常に緊張している状態が続くことです。自分に悪いことが起こるのではないかと、身構えたままでいるため、不安感や緊張感を持ち続けてしまいます。
単回性トラウマと慢性反復性トラウマのどちらも、症状が長引き、深刻化することで、PTSDの原因になることもあるようです。PTSDとの違いについては、次の文章で詳しく説明します。
PTSDとの違い

トラウマとPTSDとは混同されることのある言葉ですが、明確な違いがあります。トラウマが心の傷を負う出来事や体験を指しているのに対して、PTSDはトラウマなどによって引き起こされるストレス性の精神疾患を指しています。
つまりトラウマとPTSDとは、原因と結果に近い関係の言葉といえるでしょう。トラウマは「心的外傷体験」、PTSDは「心的外傷後ストレス障害」とも呼ばれています。PTSDは「Post traumatic Stress Disorder」の略語です。
PTSDの主な症状
PTSDの主な症状は4つあります。それぞれ詳しく説明しましょう。
・侵入体験
トラウマとなったつらい体験を突然思い出してしまう症状を指し、「フラッシュバック」と呼ばれることもあります。目の前に、当時のことが再現されているような感覚に陥ることもあり、周囲の呼びかけに反応しなくなる場合もあるようです。
・回避行動
トラウマとなった出来事を思い出すような人・場所・状況・思考・会話などを意識的、もしくは無意識に避ける症状です。回避行動によって行動が制限されるケースもあり、回避行動を続けることで、日常生活や仕事に支障をきたす場合もあります。
・過覚醒
交感神経が過度に活動することにより、興奮や緊張が続く症状です。かすかな音や匂いなどに過敏に反応する場合もあります。集中力の低下、不眠、気分の落ち込みなどをもたらすこともあります。
・否定的思考
自分や他人や社会に対して、ネガティブな思考・感情を持ってしまう症状です。自分を責める、他人を信頼しない、どのようなことも悪いほうへ考える、社会を恨むなどのあらわれ方をすることもあります。
PTSDの診断基準
PTSDの診断は、問診による判断が一般的です。問診ではトラウマ体験の内容、具体的な症状の有無や度合いなど、さまざまな観点から診断を行います。
原因となった出来事・体験との関連性を調べるとともに、薬や他の病気が要因になっていないかを確認するのが、一般的な診断方法です。
日本では現在、PTSDの診断には「DSM-5」という国際的な基準を用いています。「DSM-5」は米国精神医学界で発行された「精神疾患の診断・統計マニュアル」です。
この「DSM-5」では、トラウマとなる出来事を体験していること、「侵入体験」「回避行動」「過覚醒」「否定的思考」の4つの症状が、1か月以上持続していることをPTSDの診断基準としています。
上記の条件に合致した場合、医学的にPTSDと診断されるようです。
トラウマを克服するための6つのポイント

トラウマは、その要因も症状の度合いも人それぞれです。自分で克服できる場合もありますが、カウンセリングや医療に頼る必要のあるケースも出てくるでしょう。
自分で克服する際には、自己調整力が必要です。ストレスや緊張を減らすこと、リラックスすること、安らぎを得ることなど、さまざまな要素が考えられます。
トラウマを克服する主なポイントは、以下の6つです。
- 安全な空間を作る
- ストレスや緊張を減らす
- 瞑想を行う
- 好奇心にフォーカスする
- 死を意識する
- カウンセリングを受ける
それぞれ詳しく解説します。
1.安全な空間を作る
トラウマを克服するための大きなポイントは、環境を変えて安全な空間を作ることです。心安まることのない環境にいると、それだけでプレッシャーになってしまうかもしれません。
安全な空間とは、自分が心から安らげる場所です。家庭環境や職場環境の改善が難しい場合には、家庭からの自立、転職なども選択肢に入れる方法もあります。
2.ストレスや緊張を減らす
トラウマの克服において、とくに重要なのはストレスや緊張を減らすことです。そのためには、十分な睡眠を確保すること、食事をしっかり取って必要な栄養を補給することが大切だと考えられます。
睡眠と栄養をとれると体調が良くなり、自律神経系や免疫系、内分泌系の身体機能が回復し、精神にもいい影響を及ぼすと考えられています。適度な運動をする、ウォーキングをするなどもリラックス効果があるため、有効かもしれません。
3.瞑想を行う
トラウマを克服するうえで、瞑想を行うことも効果が期待できるでしょう。瞑想や深呼吸によって、心身ともにリラックスできるためです。
瞑想することによって、体の内側から湧いてくる感覚を察知できるようになるため、身体の眠っている部分を目覚めさせる効果があるとされています。身体を活性化することは、ストレスや緊張を解消することにもつながるようです。
4.好奇心にフォーカスする
トラウマを抱えた状態でいると、緊張したり、不安を感じたり、神経が過敏になる傾向があります。リラックスした状態になるためには、自分の興味のあることや好きなこと、興味を持っていることにフォーカスするのも、ひとつの方法といえるでしょう。
音楽鑑賞や映画鑑賞、旅行や散歩や釣り、スポーツなど、趣味を楽しんでみるのも、ひとつの方法です。好きなことに集中することで、気分転換の効果も期待できます。ストレスや緊張を解消するためには、やりたいと思ったことをやってみるのもいいかもしれません。
5.死を意識する
意外に思うかもしれませんが、死を意識することがトラウマの克服に役立つ場合があります。死を意識することは、「人生は限りあるもの」という認識を持つことにつながるためです。そして大きな視野を持って、自分を見られるかもしれません。
自分自身のトラウマを客観的に見ることによって、それまでずっと抱えていた不安や恐れ、緊張を低減できる場合もあるそうです。
また、死を意識することが、自分の生き方を見つめ直すことにつながる可能性もあります。そして、それが前向きな考え方を持つきっかけになるかもしれません。
6.カウンセリングを受ける
トラウマを克服するためには、客観的な視点が有効になる場合があるでしょう。心の専門家である臨床心理士や公認心理師、精神科・心療内科が提供するカウンセリングサービスを受ける選択肢もあります。
自分一人だけで抱え込まず、自分の気持ちをカウンセラーに話すところから少しずつ始める方法です。カウンセラーに話すことによって、自分自身の感情を理解できるようになるかもしれません。
自分を理解することが、トラウマ克服の第一歩となることもあります。心の専門家の指導で、カウンセリングを受けることも選択肢のひとつとして考えてみると良いかもしれません。
トラウマへの具体的な治療法

トラウマの克服が自分一人では手に余ると感じた場合には、精神科や心療内科の医師や心の専門家による治療方法を行ってみるのも、ひとつの選択肢です。
トラウマの治療に関しては、さまざまな研究が進められており、医療の分野で活用されている治療法もあります。
治療法は大きく分けると、以下の2つです。
- 心理療法
- 薬物療法
それぞれの治療法を詳しく解説します。
心理療法
心理療法は、トラウマの治療にも用いられる方法で、主なものとして「トラウマフォーカスト認知行動療法」「再処理法」「ソマティックエクスペリエンス」「集団療法」の4つがあります。それぞれの治療法を解説しましょう。
・トラウマフォーカスト認知行動療法
この療法は、事件・事故・災害・虐待などによってトラウマを抱えた子ども向けに開発されたものです。諸外国で高い効果が実証されており、安全性が高いと評価されています。具体的には、心理教育・感情や行動を調整するスキルの提供などを行うものです。
・再処理法
再処理法は「EMDR」とも呼ばれている療法で、「Eye Movement Desensitization and Reprocessing」の略語です。日本語では「眼球運動による脱感作と再処理法」と訳されます。
アメリカのフランシーン・シャピロ氏が1989年に発表した心理療法で、「眼球を左右に素早く動かすと気分が楽になる」ことを利用して開発されました。
・ソマティックエクスペリエンス
ソマティックエクスペリエンスは、身体感覚に基づいた治療法です。英語では「Somatic Experiencing」と書き、略して「SE」と表記されることもあります。ソマティックエクスペリエンスを直訳すると、「身体的体験」といったところでしょうか。
ソマティックエクスペリエンスにもさまざまな手法がありますが、基本は身体にフォーカスしたアプローチです。身体のリラックスした部分と緊張している部分に交互に意識を向けて、それぞれをつなげていくイメージで、意識を解放します。
呼吸法や筋弛緩法、瞑想など、さまざまな手法も取り入れて治療を行うのが特徴です。治療の過程では、不安や緊張を感じる、涙を流すなどの反応があるかもしれませんが、心の専門家の適切な指導により、自己回復力を取り戻すことが期待できます。
・集団療法
集団療法は、共通する体験を持っている人たちが、グループとなって行われる方法です。通常は、10名前後の集団を対象として行われます。
グループ内のメンバーがそれぞれ、自分のことを語ることによって、互いが互いの鏡のような役割を果たし、他者を通じて自己を知るきっかけになるとの考えに基づいた治療法です。共感・受容・同一視・普遍などの、相互効果がある療法とされています。
薬物療法
薬物療法は、中程度の症状のトラウマや併発症状の軽減のために用いられる方法です。治療に使われる薬物にもさまざまなものがありますが、トラウマやPTSDの治療では、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)が処方される可能性が高いでしょう。
SSRIには、恐怖感や不安感を緩和する作用があり、不安による震えや動悸などの身体的な症状にも効果が期待でき、6〜12週間で効果があらわれます。医者の指導のもと、薬物療法による適切な服用も、トラウマ治療の選択肢のひとつです。
トラウマを克服できないときはカウンセリングを受けてみよう!

トラウマは「心的外傷体験」と呼ばれるもので、心に深い傷を負った体験や出来事を指す言葉です。トラウマが解消されない状態が続くと、精神疾患やPTSDの原因になる場合もあります。
トラウマを克服するためには、ストレスや緊張を緩和し、リラックスすることが必要です。自分だけで克服するのが難しい場合には、公認心理師や臨床心理士などの心の専門家に相談し、カウンセリングを受ける選択肢もあります。
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