妊娠中の女性が情緒不安定になることは、決して珍しくはありません。そのため他人ごとと思わず、原因や症状、さらには発症しやすい精神障害について詳しく知っておくことは重要です。
本記事では、マタニティブルーと呼ばれる症状や情緒不安定になりやすい人の特徴、妊娠中に発症しやすい精神障害について解説します。
妊娠中に情緒不安定になる原因
妊娠すると、プロゲステロンという女性ホルモンが分泌され、このホルモンバランスの変化によって情緒不安定になりやすくなります。具体的には、以下のようなホルモンが関係しています。
- プロゲステロン
- エストロゲン
- ヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)
プロゲステロンは、胎児の成長に備えて子宮の筋肉をゆるませるはたらきを持ちます。乳腺の発達を促し、産後の授乳に備えます。しかし、血管や消化管、尿管などにも作用するため、さまざまな身体的不快感を引き起こすことがあります。
エストロゲンも、胎児の成長に必要不可欠な役割を果たしています。子宮内で胎児が成長するために子宮を厚くすると同時に、血流を増やし、妊娠を維持する成分です。エストロゲンは、中枢神経を保護するためのはたらきもあり、妊娠安定期に入ると分泌量が増えます。
妊娠初期に分泌されるヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)は、妊娠反応検査にも使われるホルモンです。hCGは、胎盤からエストロゲンやプロゲステロンが分泌されるようになるまで、主に妊娠初期に多く分泌されます。
さらに、ホルモンバランスだけでなく、出産そのものに対する不安なども原因の一つになる場合があります。
マタニティブルーとは
マタニティブルーとは、妊娠によって引き起こされるさまざまな精神的ストレスやホルモンバランスの変化が原因となって、悲しみや不安、イライラなどの負の感情を経験する状態のことです。
ここでは、マタニティブルーの症状や起こりやすいタイミングについて解説します。
マタニティブルーの症状
妊娠中に見られる「マタニティブルー」の主な症状の1つは、気分の落ち込みです。自分でもよくわからない理由で涙が出たり、ささいなことで落ち込んだりする場合は、マタニティブルーの可能性があるかもしれません。
このような状態はメンタルだけでなく、自律神経にも影響を与えるため、気分だけでなく体調不良を引き起こす可能性もあります。妊娠中は体調の変化もよく見られますが、マタニティブルーが原因である可能性も考慮しなければいけないこともあります。
マタニティブルーが起こりやすいタイミング
マタニティブルーは、個人差はあるものの妊娠初期から中期、また出産後のタイミングでも起こりやすいと言われています。
妊娠中は、つわりや食欲不振、体型の変化、出産後はホルモン量の急激な低下、産後の育児の疲れなどがそれぞれ身体に影響することが要因と考えられています。
また出産後には、30〜50%の女性がマタニティブルーを経験するといわれています。妊娠中はもちろん出産後も注意する必要があるかもしれません。
マタニティブルーで情緒不安定になりやすい人の特徴
マタニティブルーになりやすい人には、以下の4点の特徴が挙げられます。
- PMSやPMDDになったことがある人
- 責任感の強い人
- 真面目な人
- ひとりで抱え込んでしまう人
それぞれの特徴について、詳しく解説します。
PMSやPMDDになったことがある人
ホルモンバランスの乱れによって引き起こされるPMSやPMDDになったことのある人は、マタニティブルーになりやすいかもしれません。PMS(月経前症候群)やPMDD(月経前不快症候群)は、どちらも生理前に起こる身体的、精神的症状です。
どちらの症状もホルモンによる影響があるため、妊娠や産後というホルモン乱れるタイミングで、マタニティブルーを発症しやすい傾向にあります。
さらに、過去にうつ病などの精神疾患を患ったことのある人も、マタニティブルーになる可能性があるため、注意しなければなりません。
責任感の強い人
責任感が強い人もマタニティブルーになりやすいという特徴があります。妊娠や出産によって自分や赤ちゃんの未来についての強く責任を感じることがあるため、ストレスや不安を感じることによってマタニティブルーに陥りやすくなっているのかもしれません。
特に初産の場合は、慣れていないことが重なりストレスがかかる場合があります。そもそも育児をすべて完璧にこなすことは難しい場合がほとんどです。
強い責任感から自身で解決しようとひとりで悩んでしまう場合は、周りの人などに相談することも手段のひとつです。
真面目な人
真面目な人は自分に対して厳しい部分があるため、産後の育児の失敗を許すことができず、ストレスを溜め込んでしまうことがあります。その結果マタニティブルーに陥りやすい傾向があります。
また真面目な人は、周りの人に迷惑をかけてしまうといけないと考えてしまい、自身がマタニティブルーになって精神的につらい状態でも、自分で解決しないといけないと考えることもあります。
妊娠や育児の悩みを必ずしもひとりで解決する必要はありません。誰かに頼ってみようかなと考えるだけでも楽になれる場合もあります。
ひとりで抱え込んでしまう人
悩みをひとりで抱え込んでしまう人は、マタニティブルーになりやすい可能性があります。
先述したとおり、責任感が強く、真面目な人はひとりで抱え込んでしまう傾向があるため注意が必要です。
さらに周りに気軽に相談できる人がいない場合も、悩みを抱え込んでしまう場合があります。
ひとりで抱え込み適切な支援を求められずに、状況を悪化させてしまうこともあるため、妊娠中や出産後は、家族や友人、医療従事者など、適切な支援を受けることもひとつの手段です。
妊娠中に発症しやすい精神障害
妊娠中には、さまざまな身体的な変化が起こりますが、精神的な変化も避けられません。
妊娠中に発症する精神障害には、不安障害、パニック障害、うつ病、強迫性障害などがあります。これらの疾患は妊娠中に限らず、発症しうるものですが、妊娠中はホルモンバランスの変化や身体的なストレスが増えることでより発症しやすくなるようです。
ここでは妊娠中に発症しやすい4つの精神障害について解説します。
不安障害
妊娠中には、身体的・心理的な変化やストレスが増加することで、精神障害が発症する可能性があります。そのなかでも、妊娠中に発症しやすい精神障害の1つに「不安障害」があります。
不安障害は、不安症、強迫性障害、社交不安障害、過敏性腸症候群など、さまざまな症状を含む障害です。妊娠中に不安障害が発症すると、以下のような症状が現れることがあります。
- 強い不安や恐怖心が続く
- 身体的症状(頭痛、吐き気、息苦しさ、動悸など)が出る
- 睡眠障害を引き起こす
- 育児への不安や心配が強まる
- 食欲不振や食べ過ぎ、過食が見られる
- 人との関わりが避けたくなるなど
これらの症状は、妊娠中には比較的頻繁に見られるものですが、不安障害が原因である場合もあります。不安障害が発症する原因としては、遺伝的要因、ホルモンバランスの変化、過去のトラウマ、ストレスなどが考えられます。
特に妊娠中は、不慣れなことへのストレスやホルモンバランスの変化が起こるため、注意が必要です。
パニック障害
パニック障害は、突然のめまいや心拍数の増加、呼吸困難などの身体症状とともに、激しい不安や恐怖を引き起こします。
この精神障害は、自分がおかしくなってしまうのではないか、現実が現実でなくなってしまうのではないか、あるいは死んでしまうのではないかといった強い不安感や恐怖感をもたらす病気です。
この症状を繰り返すパニック発作が特徴で、通常10分以内でピークを迎え、数十分から1時間程度で自然に治まることもあります。
うつ病
マタニティブルーは、産後のうつ症状の一種であり、出産から悲しい気持ちや気分の落ち込みが起こりやすくなる現象です。
多くの母親がこの症状を経験しますが、ほとんどの場合は一時的なものであり、家族や友人の理解や支えを得ることで、2週間ほどで改善する傾向があります。
ただし、数週間から数か月以上にわたって気分の大きな変動が続き、日常生活に支障をきたす場合は、産後うつの可能性が疑われます。
産後うつは、およそ10〜15%の母親に発症するといわれているようです。この状態を放置すると、より深刻な産後精神病に進行する可能性もあるため、早めの治療が必要です。
強迫性障害
強迫症状にはささいなことが繰り返し頭をよぎり、それを抑えようとしても頭から離れない強い不安などの強迫観念と、その強迫観念を打ち消すために無意味な行為を繰り返してしまう、強迫行為があります。
強迫性障害は、この強迫症状を中心に持つ神経症の一種で、自分でもその考えや行為が無意味であることは自覚しているものの、やめることにも不安があるためやめられません。
強迫症状はうつ病と併発することがあり、約30%の頻度で合併している可能性があります。また、恐怖症・社交不安障害・全般性不安障害・パニック障害などの不安障害を、10%程度の頻度で合併することがあるため、注意しなければなりません。
妊娠中の情緒不安定を乗り切るための4つのポイント
妊娠期間中にはさまざまな体調変化が起こり、感情の起伏も大きくなりやすいため、情緒不安定になる妊婦さんもいるかもしれません。しかし、妊娠中の情緒不安定を乗り切るための対策もあります。
ここでは睡眠、食事、運動、周囲のサポートといった4つのポイントを紹介していきます。これらを取り入れることで、妊娠期間中の情緒不安定を軽減し、安定した気持ちで過ごせるかもしれません。
1.睡眠
妊娠初期は疲れやすいため昼寝や休息を取ることが大切で、とくに妊娠中期以降は胎動や頻尿による睡眠中断が増え、寝不足になりがちです。
睡眠は、精神の安定に欠かせません。特に妊娠中は眠気や疲れが出やすいため、妊娠前と同じスケジュールをこなすのが難しい場合もあるかもしれません。
日中に短い昼寝をしたり横になったりする時間を作って、心身を休めることが大切です。
2.食事
妊娠初期はつわりなどで、食欲が落ちることがあります。妊娠後期になると、物理的に胃が圧迫されて一度に多く食べられなくなることもあります。
しかし、必要な栄養をしっかりと取ることも精神を安定させるためには重要なことです。1日3食にこだわらず、小分けにして少しずつ食べるなどできるだけ必要な量を食べるようにするとよいかもしれません。
また、つわりのときは料理のにおいが気分を悪くしてしまうことがあるかもしれません。パートナーにサポートしてもらいながら、食べたいものを伝えて準備してもらうと良いかもしれません。
3.運動
適度な運動をすることも、心を安定させストレス解消の効果にも期待できます。
妊娠初期はつわりがつらく、食欲不振に悩まされることもあります。そのためストレッチなどの軽い運動で、リラックスする時間を取り入れるだけでも良いかもしれません。
妊娠中期になると体調が安定してくるため、お散歩などの軽い運動を楽しめる場合があります。やがて、妊娠後期に入ると体に負担がかかりやすい状態になるため、無理をしないように注意しなければなりません。
自身の身体と相談しながら、無理のない範囲で運動することも妊娠中の不安定な状態を乗り切るポイントのひとつです。
4.周囲のサポート
妊娠中は普段どおり生活できなくなることもあり、ストレスがたまりやすくなります。そのため、周囲のサポートを得ることでストレスを軽減することが大切です。
家族に自分の心身の状態を伝え、生活面での協力を依頼してみるのもひとつの手段です。自身の身体の状態に応じた家事の役割分担や、生活習慣の変更を検討できるかもしれません。
こうした周囲の協力により、家族間のチームワークを高めることもできます。この結束は、出産や産後の不安定な日々を乗り越えるためにも、大きな支えとなるでしょう。
妊娠中のストレスは胎児に影響する?
妊娠初期のストレスは、胎児の発育や精神系に悪影響を与えることがあります。ストレスを感じると、体内にアドレナリンという物質が分泌されます。
アドレナリンのはたらきは、心臓や手足、脳などに血液が集中して身体を危険から守ることです。そのため、子宮へ届く血液量が減少し、その血液量の不足で胎児の発育に悪影響が出る可能性があります。
また、妊娠初期にストレスを感じると、コルチゾールというストレスホルモンが分泌されます。コルチゾールは妊娠中期以降に分泌されても胎盤でブロックされますが、初期の場合は胎児まで届いてしまうことがあり、精神系の発達に悪影響を与える可能性があるようです。
妊娠中に情緒不安定になったら誰かに話しを聞いてもらおう!
妊娠中は女性の体や心が大きく変化するため、情緒不安定になってしまうことがあります。
そのようなときは、マタニティブルーで情緒不安定になりやすい人の特徴や、妊娠中に発症しやすい精神障害についてなど、本記事で解説した妊娠中の情緒不安定を乗り切るための4つのポイントを参考にすると良いかもしれません。
ただし、つらいときは我慢せずに周囲へ相談したり、サポートを受けたりすることは重要です。しかし、なかなか気軽に相談できない状況もあるかもしれません。
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